金沢星陵大学女子短期大学部

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【現代教養Ⅲ(文学Ⅱ)】マンガを文学作品として読む

2021.08.31

東京2020オリンピック競技大会の開会式では、選手入場時にゲーム音楽が取り入れられ、国名を紹介するプラカードのデザインがマンガの吹き出し風になっていました。日本のサブカルチャーが世界に誇れるものであることの証明のように思います。

私は、サブカルチャーの中でも、特にストーリーマンガを国語科教育に取り入れる研究を行っています。これまで国語科で一般的に扱ってきた文学作品は「ことば」のみで書かれていました。しかし、マンガは「ことば・絵・コマ」という複数のモードで構成されます。

今年の大学入学共通テストの国語の問題では、複数の文章・資料を読解することが求められました。また、「日本はPISA調査における『読解力』のランキングが低い傾向がある」という新聞記事などを読んだことがある人もいるかもしれませんが、PISA型読解力では、文章だけでなく、図表や絵などを視覚的に読解する能力に注目しています。つまり、マンガを教科書として授業を行うことは、今まさに求められている読解力を向上させる可能性があると考えられます。

後期開講の選択教養科目「現代教養Ⅲ(文学Ⅱ)」では、『子供はわかってあげない』(田島列島、2014、講談社)というマンガを教科書にして、全15回の授業を通して作品全体を読解します。マンガを教科書にするにあたり、徹底的な教材研究を行いました。書店のマンガコーナーに何度も立ち寄り、読める限りのマンガを読みました。厳選した結果、教科書としてこのマンガに決定しました。

このマンガを教科書とさせていただいた第一の理由は、難解で複雑な人間関係が描かれているところです。学習者に「立ち止まる機会」を多く与えてくれます。立ち止まる機会が多いというのは、「なぜこんなことが描かれて(書かれて)いるのだろう?」「この表情(セリフ)の意味とは?」など、読者がすらすら読めないということです。文学理論における読書行為論を提唱したイーザーは「空所」に注目しましたが、「空所」とは、その意味を巡って読者が想像力を働かせ、空白を埋めなければならない箇所であり、読者が立ち止まってしまうような箇所と言えると思います。私は、「空所」の充填とその交流によって、深い学びが成立すると考えています。
『子供はわかってあげない』は、「空所」として扱える箇所が多く、文学的価値が非常に高い作品だと思います。授業では、学生の皆さんに「空所」を指摘してもらい、クラス全体で「空所」の意味づけを行うことで、定まった答えのない問いの解決を試みます。そして、お互いに解釈を磨き合い、これからの時代に求められている読解力を互いに向上させることを目指します。
『子供はわかってあげない』は実写映画化され、8月20日に全国公開されました。ちょうど今年注目されているマンガ作品を授業で扱えることを幸せに思います。
学生の皆さんがどのような「空所」を見つけ出し、どのように解釈するのか、とても楽しみにしています。
 
(文:担当教員 山田範子 准教授)

受講する学生のコメント

経営実務科 2年次 Z・Aさん(石川県 県立工業高等学校出身)
私が現代教養Ⅲ(文学Ⅱ)を履修しようと思った理由は、現代教養Ⅱ(文学Ⅰ)を履修して得た「複数の視点で物事を考える力」をもっと伸ばしたいと考えたからです。授業では他者との意見交流が必ずあるため、自分では思いつかない考えに触れることができ、視野が広がりました。
現代教養Ⅲの授業を通して、より一層自分の考えの幅が広がることを期待しています。また、考えの幅を広げるために一つの考えにとらわれないことを意識して授業に取り組みます。
経営実務科 2年次 Y・Kさん(石川県 小松市立高等学校出身)
私がこの授業を履修しようと思った理由は、純粋に本やマンガを読むことが好きだからです。ですが、大人になるにつれ、本やマンガをじっくり読む機会が少なくなっていると感じており、大学生になった今、改めて作品を楽しみたいと思いました。
この授業では、答えがない問いを考えるため、自分らしい自由な発想ができると思います。また、他の受講生と解釈を交流することによって、自分とは違う目線で見ることができると思うので、この授業を通して、一つの目線だけでなく、さまざまな目線で物事を考えることができるようになりたいです。
いろんな視点で物事を考え発想できる力は、この後の人生でも大切なことと考えています。
経営実務科 2年次 E・Mさん(富山県 呉羽高等学校出身)
他者の意見を受け入れ自分の意見と融合させるという技術を活用したいと思いました。
現代教養Ⅱ(文学I)の授業では、検討課題が与えられ、それを各自で考えた後、意見交流をしていました。その際、他者の意見に耳を傾けることで、自分の意見が更に説得力のあるものになると理解しました。
現代教養Ⅲ(文学II)の授業では、また新たに文芸作品を読む際の技術が獲得できることを期待しています。そのために、より良い意見交流ができるよう努めたいです。