金沢星陵大学女子短期大学部

学長室の窓から

「卒業生を送る」(3月18日の卒業式にて)

3月25日

短期大学士の課程を終えられ、晴れて「学位記」授与式に臨まれた168人の皆さん、金沢星稜大学女子短期大学部を代表して、心からお祝い申し上げます。併せて、これまで皆様の学業生活を支えてくださった、ご家族をはじめ、多くの方々のご支援に対し、深い敬意と感謝を申し上げます。

この一年間、我々人類は新型コロナの世界的な感染に曝されました。3月8日時点で、世界では1億2千万人が感染、250万人が亡くなりました。国内でも累計感染者数44万人、亡くなられた方も8千人を超えています。世界中が同時多発の戦争に巻き込まれた状態です。 星短でも12月30日、学生1名が、新型コロナウイルスに感染していることが確認されましたが、さいわい軽度で、また冬休み中のこともあって、感染拡大等もありませんでした。3月に入って、石川県内でも医療従事者へのワクチン接種が始まり、感染も減少傾向にあるように見えますが、まだまだ予断を許しません。
 
こうした状況下で、来賓の方々にはご遠慮いただきましたが、保護者の方々のご列席をいただいて、皆さんの卒業式が挙行できることを、心から喜びたいと思います。
 
思い返せば、新型コロナ禍によって、われわれの生活様式は激変いたしました。手洗い、うがい、マスク、体温測定、ソーシャルディスタンス、ステイホーム、リモートワーク、緊急事態宣言、イベント中止や、自粛生活などなどです。関西空港の12月国際線旅客便は前年比98%減、小松空港は国際線が運航できない状態が一年以上続いています。これに象徴されるように、産業界は社会的、経済的にも大きな打撃を受け、雇用状況も深刻なままです。
 
こうした社会情勢を考えた時、私たちが一番心配したのは、星短の皆さんの学業継続や就職・進路にどんな影響が出るのかということでした。星短も前期は遠隔授業にせざるを得ませんでしたし、課外活動行事や就職活動も様々な制約が生じたことと思います。皆さんは、「夢を力に、2年で4年を超える」、「明日輝く女性になる」をスローガンに、これまで努力を積み重ねてこられました。その夢と努力がかなえられない可能性を心配したのです。
 
しかし、その心配は結果的に杞憂に終わりました。今年度皆さんが達成されたその成果は、実質就職率91%、国家・地方公務員合格者延べ13名、金沢星稜大学をはじめ他大学も含めた大学編入・専門学校進学者計7名でした。これは入学定員150名規模の女子短大としては驚異的な数字です。うれしい限りです。皆さんの努力を讃え、敬意を表します。
 
皆さんは、本日星短という港を離れ、それぞれの道に向かって旅立ちます。新しい船出です。実は私はスポーツ学が専門なのです。ですから少しだけお話をいたしますと、この船出という言葉は、スポーツという言葉におおいに関係があるのです。スポーツという言葉は、もともとは、港つまりportを離れる(disする)ことに由来するディスポート(disport)という言葉から生まれたのです。日常という港から船出して、何があるかわからない、新しい冒険の世界で生きていこうとする時の、はらはら・どきどき、わくわくする世界をスポーツといったのです。つまり、スポーツは「港を離れる楽しさ」、あるいは「わくわくする世界」と訳したらよかったのですね。私は「生涯スポーツ」という言葉を「生涯わくわく」に変えましょうと提案しているのですが、全然賛同者が広まりません。
 
同じように、卒業は英語でgraduation(グラデュエーション) か commencement(コメンスメント)といいます。 graduationは、grade(グレード、ランク)が一段上がること、commencement は「始まり」を意味します。卒業は終わりなのではなく、新しい船出、つまりsportでもあるのですね。
 
皆さんが船出すると、長い航海の間には、嵐や台風にぶつかるかもしれません。これまで長い間、私たち日本人は、例えば北に進路を定めたら、目標に向かって一直線。ともかくがむしゃらに突き進むことがよいと考え、またそのように教わってきたように思います。
 
しかし、フランスのドゥルーズという哲学者は、世界にはもっと多様で柔軟な生き方が必要なのだと説きました。目の前に嵐や台風が迫っているなら、その時に一直線だなどと言わず、さっさと避けなさい。逃げなさい。命があれば、どれだけ回り道をして時間がかかろうと、いつかは目的地に到達することができるのだと言います。
 
若い頃には、その考え方は逃げ腰で、あまり潔くないように思えたのですが、今は社会の多様性を維持していくには、そちらのほうが、はるかに合理的で、勇気が要ることなのかもしれないと考えています。大事なことは、「生きて幸せになること」です。人間は幸せになるために生きるのです。ぜひ、このことを覚えていてください。
 
そして、皆さんが目指す目的地は、「誠実にして社会に役立つ人間」です。「誠実」というのは、これまで皆さんがやってこられた、自分の夢や理想に向かい、それを実現するために、日々、目の前のことがらを一つ一つきちんと、手を抜かずにこなし続ける力を持った粘り強い人のことを言います。そして「社会に役立つ人間」というのは、あなた方が自分の夢を実現するとともに、それが自分のためだけではなく、誰かが喜んでくれたり、幸せになったり、社会が少しでも良くなるような活動や行為に結び付けなさい、ということです。折に触れて、この建学の精神を思い起こしてください。
 
そして「卒業」が終わりを意味しないのと同じく、うれしいにつけ、悲しいにつけ、折に触れて星短を訪れてください。星短はあなたの母校として、いつでも帰ってくることのできる特別な場所ですし、星短もまた、皆さんと一緒によりよい社会に向けて進む力強いエンジンであり続けたいと願っています。
 
最後に、ここに卒業の日を迎えられた皆さんが、より良い社会の担い手として、健康で幸せな、希望に満ちた未来を築かれることを心より祈念して、お祝いの言葉とします。本日は誠におめでとうございます。 (写真 筆者 星短正門 稲置繁男初代理事長像と「建学の理念」石碑)