金沢星陵大学女子短期大学部

学長室の窓から

「卒業生を送る」(3月17日卒業式にて)

3月25日

本日、短期大学士の課程を終えられ、晴れて「学位記」授与式に臨まれた145名の皆さん、金沢星稜大学女子短期大学部を代表して、心からお祝い申し上げます。併せて、これまで皆様の学業生活を支えてくださった、ご家族をはじめ、多くの方々のご支援に対し、深い敬意と心からの感謝を申し上げます。

筆者撮影、春の浅野川・大海原へ

皆さんの入学時点での仲間は155人でした。病気や家庭の都合、進路変更など、さまざまな事情でこの日を迎えられなかった方もおられます。人間には、いろいろなできごとがありますから、生きていくことはやはり大変なことなのです。皆さんは幸いなことにそれを切り抜けてこられたのです。

2月24日以来、私の心は晴れません。ロシアがウクライナに軍事侵攻して、戦争を始めたからです。つい先日まで平和に暮らしていた3百万人もの人々が、妻や子どもを隣国へ避難させ、夫が戦いのために残るという、まことに悲惨な場面を、21世紀の今日、この年齢になって見ることになろうなとは思ってもいませんでした。

幸い、日本は平和で、同じようなことがすぐ起きるとは考えにくいのですが、しかし平和というのは自然から与えられる当たり前の恩恵ではないのだと改めて思わされたことでした。

本日、皆さんが卒業式を迎えられるのは、社会が平和であり、皆さんご自身の努力はもちろんですが、それにはご家族をはじめ、多くの方々のご支援があって可能だったことに改めて気づかされます。どうかそのことの意味を謙虚に受け止めて、今日、家に帰られたら、ご両親やご家族にきちんと卒業の報告をし、お礼と感謝の言葉を述べてください。

さて、この2年間、皆さんは入学式から、本日の卒業式に至るまで、新型コロナの感染拡大に悩まされ続けた、まことに気の毒な学年でした。入学直後から遠隔授業になり、後期は対面授業に戻しましたが、マスク、体温測定、ソーシャルディスタンス、ステイホーム、イベント中止、海外研修中止、自粛生活などなど、アルバイトも含めて、さぞや大変困難な2年間だったことでしょう。

私たち教職員が心配したのは、星短の皆さんの学業継続や就職・進路にどんな影響が出るのかということでした。皆さんは、「夢を力に、2年で4年を超える」、「明日輝く女性になる」をスローガンに、これまで努力を積み重ねてこられました。その夢と努力がかなえられない事態になることを恐れたのです。

しかし、その心配は結果的に杞憂に終わりました。今年度皆さんが達成されたその成果は、名目就職率95.5%、国家・地方公務員合格者延べ24名、大学編入者8名でした。これは入学定員150名規模の女子短大としては驚異的な数字です。うれしい限りです。

星短生の活躍は、金沢市のあすなろ文学賞入賞、JA金沢さんとのコラボレーションによる打木カボチャや小坂レンコンの商品開発と販売の様子などが、テレビや新聞などでもとり上げられ、地域の人々に夢とエネルギーを与えてくれました。皆さんの努力を讃え、敬意を表します。
星短の教育の特徴を私はこう考えています。星短は4年制大学と比べて、2年間しかないので、必要な分を精選し、ギューッと凝縮して教える「選択と集中」の高等教育なのです。少し忙しかったかもしれませんが、その分充実しているため、あっという間だったのではないでしょうか。そして私は短大の良さは、2年間であるために、勉強をしすぎていない点にあると考えています。

私の知っている剣道の老先生がおられます。かつて日本チャンピオンにもなったこの先生、今でも稽古の時間はきっちり2時間です。ある学生がこれでは足りないと思い、自主練で稽古前に1時間ほど汗をかき、道場に出かけると、猛烈に叱られたそうです。「出がらしのお茶みたいな状態で稽古に来るんじゃない!それじゃ新しいことを覚えられない!」

皆さんも同じです。これから世の中に出て、新しいことをどんどん吸収していくのです。必要なことは身に付いており、それでいて、草臥れていない。若くて元気なのです。それが星短生の魅力なのだと自信を持ってください。

皆さんは、本日星短という港を離れ、それぞれの道に向かって旅立ちます。新しい船出です。卒業は英語でgraduation(グラデュエーション) とか commencement(コメンスメント)といいます。 graduationは、grade(グレード、ランク)が一段上がること、commencement は「始まり」を意味します。卒業は終わりなのではなく、始まり、新しい船出なのですね。

皆さんが船出すると、長い航海の間には、嵐や台風にぶつかるかもしれません。これまで長い間、私たち日本人は、例えば北に進路を定めたら、目標に向かって一直線。ともかくがむしゃらに突き進むことがよいと考え、またそのように教わってきたように思います。しかし、フランスのドゥルーズという哲学者は、世界にはもっと多様で柔軟な生き方が必要なのだと説きました。目の前に嵐や台風が迫っているなら、その時に一直線だなどと言わず、さっさと避けなさい。逃げなさい。命があれば、どれだけ回り道をして時間がかかろうと、いつかは目的地に到達することができるのだと言います。

若い頃には、その考え方は逃げ腰で、あまり潔くないように思えたのですが、今は社会の多様性を維持していくには、そちらのほうが、はるかに合理的で、勇気が要ることなのかもしれないと考えています。大事なことは、「生きて幸せになること」です。人間は幸せになるために生きるのです。ぜひ、このことを覚えていてください。

そして、皆さんが目指す目的地は、「誠実にして社会に役立つ人間」です。「誠実」というのは、これまで皆さんがやってこられた、自分の夢や理想に向かい、それを実現するために、日々、目の前のことがらを一つ一つきちんと、手を抜かずにこなし続ける力を持った粘り強い人のことを言います。そして「社会に役立つ人間」というのは、あなた方が自分の夢を実現するとともに、それが自分のためだけではなく、誰かが喜んでくれたり、幸せになったり、社会が少しでも良くなるような活動や行為に結び付けなさい、ということです。折に触れて、この建学の精神を思い起こしてください。

そして「卒業」が終わりを意味しないのと同じく、うれしいにつけ、悲しいにつけ、折に触れて星短を訪れてください。星短はあなたの母校として、いつでも帰ってくることのできる特別な場所ですし、星短もまた、皆さんと一緒によりよい社会に向けた駆動力であり続けたいと願っています。

最後に、ここに卒業の日を迎えられた皆さんが、より良い社会の担い手として、健康で幸せな、希望に満ちた未来を築かれることを心より祈念して、お祝いの言葉とします。本日は誠におめでとうございます。