金沢星陵大学女子短期大学部

学長室の窓から

「名望家」

5月15日

フォーブス世界長者番付・億万長者ランキング(2020年版/WEB)によると、2020年、日本一の富豪はソフトバンクの孫正義氏(4兆8920億円)だそうですが、世界で見ると29位。世界一の大富豪は、孫正義氏の3倍、米国アマゾン社のジェフ・ペゾス氏(13兆1000億円)だそうです。大阪市立大学准教授の斎藤幸平氏によると、国際開発援助NGO「オックスファム」は、世界のトップ26人の資産総額が世界人口の半分、39億人の資産に匹敵すると試算しているそうです。
 
サイード『オリエンタリズム』(1986)は、1815年から1914年の百年間に、ヨーロッパの直接支配下に置かれた植民地領土は、地表面積のおよそ35%から85%にまで拡大したと述べています。19世紀から20世紀はまさに帝国主義の時代だったのですね。現代のグローバル新自由主義の時代、世界は少数の超富豪層に支配されるのではと危惧されます。

筆者撮影、山のあなたの空遠く

ところで、近代日本史、とりわけ地方史を紐解いていくと、「名望家」とよばれる人々の存在に気づかされます。近代の地域社会において名声や人望を兼ね備え、私財を投じて、経済・文化・政治活動等に力を入れた人のことを指します。稲置学園を創設した稲置繁男(1910~1993)氏もこの一人でしょう。
 
金沢と名古屋を鉄道で結ぶ「金名(きんめい)鉄道」を構想した白山市鶴来月橋出身の実業家、小堀定信(こぼりていしん、1888~1964)氏もそうした名望家の一人でした。運送業を営み、私財を投じて白山麓に16.8キロ(加賀一の宮駅~白山下駅)の鉄道を完成させます。昭和2年のことです。終点の「白山下」駅は旧尾口・白峰村の玄関口となり、白山登山客で賑わうなど、一時は人や物資を運ぶ大動脈として、白山麓の発展に大きく貢献したとされます。(白山市役所ホームページ 小堀定信 参照)
 
現在であっても冬季は閉鎖される「白山白川郷ホワイトロード」(旧 白山スーパー林道)沿いのルートに鉄道を通そうとしたこの名望家の構想力の大きさと並外れた実行力には驚くほかありません。しかし工事費がかさんで、やがて倒産。岐阜県郡上八幡までの延伸はならず、盲腸線となった金名線はやがて廃止。現在、その一部はサイクリングロード、また駅舎の一部が北鉄石川線(野町~鶴来)として利用されているそうです。
 
もしこの「金名鉄道」、名古屋まで開通していたら、現在金沢から米原経由で名古屋を結ぶ北陸線・東海道線の特急「しらさぎ」号は、この線を通る山岳特急「きんめい」号として親しまれ、大動脈になっていたかもしれません。
 
我々現代人は、このような事業を構想すると、真っ先に、国や地方自治体への陳情や請願を考えそうですが、自らが率先して事業に立ち上がり、私財を投じる名望家の発想や行動・実行力には瞠目させられます。そのエネルギーはどこから生まれてきたのでしょうか。
 
稲置繁男氏、小堀定信氏ら名望家と呼ばれる方々は、自分の事業や夢を「社会に役立つ」ということに直結させていたのだと思います。
 
現代世界の「大富豪」たちは、世の中に何をもたらし、何を作るのでしょうか。ピラミッド?万里の長城?月面王宮?
 
ホリエモンこと堀江貴文氏らが私財を投じ、創業したロケット開発会社は今のところ、成功とは言えないようですが、私たちに大きな夢を与えてくれた点は評価したいと思います。日本海から琵琶湖を経由して、大阪や名古屋など太平洋へ抜ける日本横断運河建設などいかがでしょう。「21世紀名望家」の出現はないものでしょうか。