金沢星陵大学女子短期大学部

学長室の窓から

能登の被災酒造家とそれを支える各地の名望・酒造家たち

2月25日

能登半島地震によって、酒どころ奥能登3市町にある11の酒蔵がいずれも大きな被害を受けました。いずれも100~200年以上の歴史と伝統を持つ酒造家です。
奥能登の酒蔵11社、全て被災「今年分は全部だめ」…「町のため再開させたい」 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

輪島市
清水酒造店【能登誉】一部倒壊 今期の酒造り困難
中島酒造店【能登末廣】全壊 今期の酒造り困難
中野酒造【能登亀泉】一部倒壊 今期の酒造り困難
中納酒造【若緑】一部倒壊 今期の酒造り困難
白藤酒造店【奥能登の白菊】販売店舗全壊、酒蔵半壊 今期の酒造り困難
日吉酒造店【白駒】蔵全壊、店舗一部倒壊 今期の酒造り困難

珠洲市
櫻田酒造【大慶】全壊 今期の酒造り困難
宗玄酒造【宗玄】裏山土砂崩れ、醪タンクの傾き 酒造りの行程を再開

能登町
數馬酒造【竹葉】津波浸水、地割れ、壁面の倒壊、汚泥 酒造り再開の可能性有
鶴野酒造店【谷泉】全壊 今期の酒造り困難
松波酒造【大江山】全壊 今期の酒造り困難
「令和6年能登半島地震」酒蔵被害状況(2024年2月10日)による)
「宗玄」会員だった友人のところには「裏山が崖崩れを起こし、トンネルが埋没。貯蔵されていたお酒はすべて破損したものと思われるため、同等品又はそれ以上の既存商品と年間維持管理料をお返しし、お詫びの品をお届けします」とはがきが届いたとか。「お詫びの品も返金も要りません。復旧・復興の後に、また宗玄のお酒を、そしてもし可能ならまた隧道貯蔵を楽しめる日が来ることを夢見て、会員証を大切に保管しておきます」と返信したとのこと。
「友よ、さすがだ。ありがとう。」

能登町の鶴野酒造は「地震のご報告」として「家族は無事です。ご連絡をくださった皆様、誠にありがとうございました。家、店、酒蔵は、全壊しました。地震が落ち着きましたら、改めて詳細をご連絡させていただきます。」と「谷泉」の軒看板が辛うじて残った店の全壊写真と共に掲載しておりました。このお知らせと全壊写真を私はいまだに涙なくして見ることはできません。

さて、酒造家は奥能登だけではありません。県内外にも多くの酒造家があって、1月後半から驚くようなうれしいニュースが入ってきています。冷え込みが深まる1、2月は各蔵とも仕込みの最盛期なのですが、県内・県外の各地の酒蔵が、被災した能登の蔵から日本酒のもととなる「もろみ」を引き取り、製造を代行する動きが広がっているというのです。
東京新聞、2024.2.13「能登の酒を止めるな 被災した五つの酒蔵を全国の同業者が支援 資金集め共同醸造やコラボ計画」
リーダーとなっているのは白山市の吉田酒造とのことです。

筆者撮影 立春の浅野川

例えば、輪島「白菊」の白藤(はくとう)酒造には信州の湯川酒造が、「竹葉」(ちくは)の数馬酒造には東日本大震災で被害を受けた宮城県の新沢(にいざわ)醸造、白山市の車多(しゃた)酒造、小松市の加越酒造、加賀市の辻酒造、金沢市の福光屋が。車多酒造さんは「酒蔵仲間として当たり前。まずはもろみを救うことができてよかった」と言い、福光屋さんは鶴野酒造の酒造りも支援し、「奥能登の酒造は一緒に頑張ってきた仲間であり、少しでも助けになりたい」と語っておられます。

私はこうした造り酒屋さんたちの共助行動や発言、ネットワークを見ていて「名望家」という言葉を思い浮かべました。日本近代の地域社会において経済・文化・政治活動等に力を入れ、名声や人望を兼ね備えた人のことを指します。 旧家・名士・素封家と同義で使われることが多いのですが、名望家たる資格は、資力だけではありません。一定の資産や教養に加え、人望を集め得る名望家こそが真に地域の近代化や振興に大きな役割を果たしてきましたし、今後の復興にも大きな役割を果たし得ると思います。

能登の被災酒造家の皆さん、そして支えてくださる県内外の全国各地の名望・酒造家の皆さん。応援・激励と感謝の念を込めて皆さまのお酒を少しずつ賞味し、支援させていただこうと思います。