金沢星陵大学女子短期大学部

学長室の窓から

Sei-Tan Act で考えたDX

2月15日

2月13日(火)学生支援課主催のSei-Tan Act Winter Sportsが行われました。場所は富山県南砺市イオックス・アローザスキー場。この日は全国的な晴天、最高気温15℃の眩しいほどの春の一日。雲一つない青空のもと、春めいて黒ずんだ砺波平野の向こうに真っ白な立山連峰が輝いておりました。3月の短大学長任期満了を前に、人生最後のスキーになるかもしれない(間もなく満74歳!)と、記念に半日だけ参加させていただきました。10数名のSei-Tan生の皆さんは全員がスノーボーダー、ほとんどが初心・初級の方々。

現代は例えばスノーボードの滑り方はおろか、自動車の運転、飛行機の操縦に至るまで、パソコンやスマホなどの動画を見て習うことができます。このようなさまざまな知識を言語や図、映像に変換できる「形式知」の伝達にITを活用した映像はとても効果的です。NHK放送大学の授業などはとてもよく工夫されてわかりやすくできています。読み、映像を見れば誰でも理解できるからです。わかった気持ちにさせてくれます。自動車学校で習う「運転マニュアル」もこれです。
ですが、「運転マニュアル」を読んで運転の仕方を覚えても、それだけでは実際に運転できるようにはなりません。実際に練習して、何度も失敗しながら、コツをつかみ、ようやく個人の感覚で運転できるようになります。この言葉にならない運転感覚や技能を「暗黙知」といいます。

筆者撮影 冬山と青空 (イオックス・アローザ)

私は「身体文化史」の研究者ですから、「形式知」の工夫と「暗黙知」の統合を「身体感覚」として重視してきました。学生の皆さんのスノーボード練習は、いずこにも繰り広げられるおなじみの転倒また転倒の風景から始まります。尻餅に顔をしかめ、やがて数メートルの滑走に満面の笑顔と大歓声があがります。小一時間ほどのレッスンで、全員が安全にリフトに乗り降りできるまでにあっという間に上達し、さすが若者ですね。

私が学生たちに望んだのは単にうまくなる、つまりパフォーマンスの向上というよりは豊かな身体経験を通した「暗黙知」の獲得経験でした。転倒時の顔にかかる雪の冷たさや見上げる空の青さ、足が地面から離れてバランスを崩した時の不安な身体感覚、思わずあげる大悲鳴、数メートル滑走できた時の喜びや空中滑走の達成感等々。世界における近代体育の生みの親とされるゲーテと同時代のドイツ人グーツムーツ(1759 – 1839)は、体育の重要な項目として、身体運動とともに身体感覚や発声運動も取り込んでいたのでした。それに倣って、実際に経験することの重要性を味わってほしかったのです。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)は、一般に「ITを活用し人々の生活を改善していく」というくらいの意味ですが、ITを活用すればするほど、それと共にダイレクト・トランスフォーメーションというべき直接的な身体経験による暗黙知の獲得も並行して重要になるのではないでしょうか。グーツムーツから学んだ私の実感的DX論でした。