金沢星陵大学女子短期大学部

学長室の窓から

「生きて幸せにならん」(3月16日 学位記授与式式辞から)

3月17日

本日、短期大学士の課程を終えられ、晴れて「学位記」授与式に臨まれた130名の皆さん、金沢星稜大学女子短期大学部を代表して、心からお祝い申し上げます。併せて、これまで皆様の学業生活を支えてくださった、ご家族をはじめ、多くの方々のご支援に対し、深い敬意と心からの感謝を申し上げます。

皆さんの入学時点での仲間は133人でした。病気や家庭の事情で、進路変更あるいは、さまざまな理由で卒業単位が修得しきれず、この日を一緒に迎えられなかった方もおられます。人間には、いろいろなできごとがありますから、生きていくことはやはり大変なことなのです。皆さんは幸いなことにそれを切り抜けてこられたのです。そしてこれからも切り抜けていかねばなりません。

本日、皆さんが卒業式を迎えられるのは、社会が平和であり、皆さんご自身の努力はもちろんですが、それにはご家族をはじめ、多くの方々のご支援があって可能だったことに改めて気づかされます。どうかそのことの意味を謙虚に受け止めて、今日、家に帰られたら、ご両親やご家族にきちんと卒業の報告をし、お礼と感謝の言葉を述べてください。

2022年2月24日以来、ロシアがウクライナに侵攻して、戦争を始めて、1年がたちます。いまだに戦火が収まる気配は見えず、私の心は晴れません。つい先日まで平和に暮らしていた8百万人もの人々が家族を国外へ避難させ、夫や息子たちが武器を取って戦場に残るという、まことに悲惨な場面を、21世紀の今日目にすることになろうとは思ってもいませんでした。

また、2023年2月6日、トルコ南部からシリアにかけて発生したマグニチュード7・8の地震から1か月たちました。死者は5万人を超え、しかも内戦で疲弊しきったシリア国内の状況は不明な点も多く、国際的な支援の手も十分には届いていないと言われています。2011年の東日本大震災を超える大惨事となっています。 東アジアの国々も国際的な緊張が高まって不安定化しているのが現状です。世界は、各地で戦争や紛争に加えて、地震や水害・干ばつなどの自然災害、また新型コロナウイルスなどの新たな疾病の登場によって脅かされ、今後も混乱と貧困化がいっそう進むと予想されています。

日本は、今のところ、平和で落ち着いているように見えますが、しかし平和というのは自然に与えられる当たり前の恩恵ではないのだと改めて思わされたことでした。

さらに、これから30年後の2050年、つまり皆さんがおよそ50歳、皆さんの子どもたちが大学を卒業する頃には、日本の人口は9千万人に減少しているそうです。つまり、昭和10年代の水準に逆戻りするということです。GDP(国内総生産)も減少し、日本が相対的に貧しくなることは言うまでもありません。でもそうした時代にあっても、あるいは、そうした時代あればこそ、私は皆さんのこれからの人生と将来に新たな夢を見ますし、新たな可能性があると信じます。皆さんに大きな希望を託したいと思います。 さて、新型コロナの発生から3年あまり、皆さんは入学式から本日の卒業式に至るまで、2年間、新型コロナの感染拡大に悩まされました。マスク、体温測定、ステイホーム、リモートワーク、イベント中止、海外研修の自粛など、アルバイトも含めて、さぞや大変困難な2年間だったことでしょう。5月に想定されている五類への引き下げを前に、感染対策も幾分緩和され、本日皆さんの元気なお顔を拝見して、ようやく新型コロナに打ち勝つことができそうだと安心いたしました。

皆さんは、「夢を力に、二年で四年を超える」、「明日輝く女性になる」をスローガンに、これまで努力を積み重ねてこられました。その夢と努力はかなえられたでしょうか。 今年度皆さんが達成された成果は、名目就職率96・6%、国家・地方公務員合格者13名、金沢星稜大学をはじめ他大学も含めた大学編入合格者10名でした。卒業後カナダに留学される方もいます。これは入学定員100名規模の女子短大としては驚異的な数字と実績です。うれしい限りです。

星短生の活躍は、金沢市のあすなろ文学賞入賞、能登牛生産業者組合様とのコラボによる能登牛アイシャドーの開発、JA金沢様とのレンコングッズの商品開発と販売の様子などが、NHKテレビで全国放送、新聞でもとり上げられ、地域の人々に夢とエネルギーを与えてくれました。皆さんの努力を称え、敬意を表します。

皆さんは、本日星短という港を離れ、それぞれの道に向かって旅立ちます。新しい船出です。 卒業は英語でgraduation(グラデュエーション) か commencement(コメンスメント)といいます。 graduationは、grade(グレード、ランク)が一段上がること、commencement は「始まり」を意味します。卒業は終わりなのではなく、始まり、新しい船出なのですね。 皆さんが船出すると、長い航海の間には、嵐や台風にぶつかるかもしれません。これまで長い間、私たち日本人は、例えば北に進路を定めたら、目標に向かって一直線。ともかくがむしゃらに突き進むことがよいと考え、またそのように教わってきたように思います。 しかし、フランスの哲学者ドゥルーズという哲学者は、世界にはもっと多様で柔軟な生き方が必要なのだと説きました。目の前に嵐や台風が迫っているなら、その時に一直線だなどと言わず、さっさと避けなさい。逃げなさい。命があれば、どれだけ回り道をして時間がかかろうと、いつかは目的地に到達することができるのだと言います。
若い頃には、その考え方は逃げ腰で、あまり潔くないように思えたのですが、今は社会の多様性を維持していくには、そちらのほうが、はるかに合理的で、勇気が要ることなのかもしれないと考えています。大事なことは、「生きて幸せになること」です。人間は幸せになるために生きるのです。ぜひ、このことを覚えていてください。

筆者撮影 Sei-Tan キャンパスの白梅

そして、皆さんが目指す目的地は、「誠実にして社会に役立つ人間」です。「誠実」というのは、これまで皆さんがやってこられた、自分の夢や理想に向かい、それを実現するために、日々、目の前のことがらを一つ一つきちんと、手を抜かずにこなし続ける力を持った粘り強い人のことを言います。そして「社会に役立つ人間」というのは、あなた方が自分の夢を実現するとともに、それが自分のためだけではなく、誰かが喜んでくれたり、幸せになったり、社会が少しでも良くなるような活動や行為に結び付けなさい、ということです。折に触れて、この建学の精神を思い起こしてください。

そして「卒業」が終わりを意味しないのと同じく、うれしいにつけ、悲しいにつけ、折に触れて星短を訪れてください。星短はあなたの母校として、いつでも帰ってくることのできる特別な場所ですし、星短もまた、皆さんと一緒によりよい社会に向けた駆動力であり続けたいと願っています。

最後に、ここに卒業の日を迎えられた皆さんが、より良い社会の担い手として、健康で幸せな、希望に満ちた未来を築かれることを心より祈念して、お祝いの言葉とします。