金沢星陵大学女子短期大学部

学長室の窓から

「ソルハ(平和)と鯉のぼり」

4月15日

2022年2月、ロシア軍がウクライナに軍事侵攻。戦場と化したウクライナは、民間人を含めた死者数万人、450万人もの難民が発生。中でも社会的弱者の受ける影響は深刻で、国連児童基金(ユニセフ)によれば、ウクライナ全体の子どもの3分の2が避難を余儀なくされ、国内に留まっている子ども320万人の半数近くは十分な食事も取れておらず、子どもや若い女性が暴力や人身売買に巻き込まれる危険性も高まっていると報じられています。(時事ドットコム 2022.4.12)。激しい戦闘ですから、むろんロシア側にも多くの死傷者が出ていることでしょう。

1979年から1989年にかけて、ソ連(当時)はアフガニスタンも軍事侵攻しました。短期で限定的な侵攻作戦の思惑は外れ、泥沼化した戦争は、10年間にわたってアフガニスタン全土を戦禍の混乱状態に陥れました。当のソ連も国家体制が危機に瀕し、結局、ソ連軍は1989年2月にアフガンから撤退、その2年後1991年にはソ連そのものが崩壊したことはみなさんご存じの通りです。

筆者撮影、朝日の鯉のぼり

1989年、ソ連がアフガニスタンから撤退後、内戦状態となった首都カブールで暮らす少女ビビの小学校入学前後から次第に成長していく姿を描いたのが、帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)の小説『ソルハ』です。第60回小学館児童出版文化賞受賞作品ですが、大人にも十分読みごたえがあります。

生まれた時から戦争が日常の風景だったビビは、何を決意し、どんな支えを持って生き抜いたのでしょうか。また勉強にも世界の動きにも好奇心旺盛な少女だったビビが、女性には教育の権利も外出の自由も認めないイスラム・タリバンの宗教的支配下で何を考え、どのように行動したのでしょうか。私は現在ウクライナに生きる多くのビビたちが二重写しに見えます。

『ソルハ』のラストシーンは、2002年タリバンが敗走したカブールの空に、「ソルハ」と書いた青い凧が再び上がる感動的なシーンで終わります。

青い凧もいいのですが、5月の青空を悠々と泳ぐ鯉のぼりが大好きな私は、一日も早く、ウクライナの空に大きな鯉のぼりを上げたいなと思わずにはいられません。

「ソルハ」。平和へのメッセージを込めた著者渾身の一冊だと思います。Sei-Tanの女子学生の皆さんにも是非ご一読をお薦めします。

ウクライナの支援はもちろん大事なことですが、同時にアフガニスタン、ミャンマー問題なども忘れてはなりません。
参考文献
・帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)『ソルハ』、あかね書房、2010
(「ソルハ」はアフガニスタン・ダリ語で「平和」の意味)