金沢星陵大学女子短期大学部

学長室の窓から

「若者には夢と冒険がよく似合う」

4月25日

知人の娘・ゆうさん(仮名)は大学卒業後、人も羨む公務員の職を得て3年を経たこの3月末、思い切りよく退職し、周囲を驚かせました。近々アメリカに勉強に旅立つのだと言います。中学生の頃から、利発で活発、何事にも積極的でしっかり者だったゆうさん。固いお役所の雰囲気の中で、どことなく不完全燃焼で窮屈そうに生きているように見えて、本当の自分を出し切れていないなと、少し気にかかっていた所でした。周囲からは「もったいない!どうして?」と驚かれたそうですが、反面「うらやましい、頑張ってね」と、好意的に送り出してくれた人も多かったそうです。最終日には、本人自身「本当にこれでよかったんだろうか」と不安も覚え、たくさんの涙を流したとのこと。

その話を聞いて久々に胸がきゅんとなりました。私自身も20歳代、同じような疾風怒濤の時代を送ったからです。安定し、確固とした何者かであるよりも、これから何者かになっていこうとする若者の、まだ不定形の魂であるが故の生成に潜むエネルギー、そして冒険への意思。その向こう側にあるのは、たとえ失敗・混乱であろうとも、それは自分が引き受けなければならない未来です。

筆者撮影、「絆」像(杜の里)

ゆうさんのような若者に、池澤夏樹『氷山の南』を薦めたいと思います。主人公ジンは、オーストラリアの港からある船に密航者として乗り組みます。船の名はシンディバード(「シンドバッド」のアラビア語の発音だそうです)。船の使命は、南極で適当な氷山を見つけ、曳航してオーストラリアまで持ち帰り、人類の水不足を解消すること。SF的ではありますが、気宇壮大な冒険小説です。沼野充義氏の書評「若者よ、混乱の向こう側に未来をつかみとれ 池澤文学が創り出すユートピア的空間」も素晴らしいので、ぜひ合わせてご一読を。リムスキー・コルサコフの交響組曲「シェヘラザード」を聴きながらですと、一層元気が出てくるかもしれません。若者には夢と冒険がよく似合います。
参考文献
池澤夏樹『氷山の南』文藝春秋社、2012(2014文庫)
沼野充義「若者よ、混乱の向こう側に未来をつかみとれ 池澤文学が創り出すユートピア的空間」(2014.10.05)