金沢星陵大学女子短期大学部

学長室の窓から

「アオバト音楽祭」幻想

5月25日

以前住んでいた近郊丘陵地の森の中は静かで空気もよし。野鳥も多く、冬のヤマガラは手からえさを啄むことを知りました。春になると林の中から雉も現れます。そして5月の青葉茂れる頃になると、カッコウやホトトギスの声が聞こえて初夏を感じさせるのですが、格別なのはアオバトの声。「アーーアオーアオー」「ウーウワァーオー」と、近所の赤子が、悲痛な声で泣いているかのよう。どこか痛いのだろうかと気になって落ち着かない気分にさせられます。一方で澄んだオカリナの響きのような美しい抑揚もあり、鳥のさえずりとは思えない、魂を揺さぶられるような不思議な声です。

『遠野物語52(魔王鳥)』には、「アーホー、アーホーと啼くは此地方にて野に居る馬を追ふ声なり。年により馬追鳥里に来て啼くことあるは飢饉の前兆なり。深山には常に住みて啼く声を聞くなり」と、「馬追鳥」の字を当てているとのこと。飢饉の前兆などとも言われ、「魔王鳥」の異名もあるくらいですから、古来その不気味さはよく知られていたものと思われます。
私は直接その姿は見たことがないのですが、舳倉島で撮影・録音したというアオバトの声と姿を動画で視聴することができます(野鳥動画図鑑)。

ところで、「いしかわ風と緑の楽都音楽祭」。2023年テーマは「東欧に輝く音楽」で、チェコ、ハンガリー出身の作曲家を中心に、地元オーケストラ・アンサンブル金沢やチェコのヤナーチェク・フィルハーモニーなど、ゴールデンウィークの金沢がクラシック音楽であふれました。東欧・中欧の音楽は金沢によく溶け込むような気がするのは私だけでしょうか。おかげさまで堪能することができました。ただ、最終日の5月5日14時42分頃、珠洲市で最大震度6強を観測する大きな地震が発生。演奏中、突然客席のスマホに緊急地震速報が流れ、演奏も一時中断。その後安全が確認されて演奏が再開されたとのことでした。能登の人々はもとより皆様の被害が軽微であることを願わざるを得ません。

筆者撮影 浅野川の鴉(からす)はいかにも健康です

この音楽祭は金沢に住む幸せをしみじみと感じさせてくれる素晴らしいイベントなのですが、ただゴールデンウィークは他の行事や催事も集中、また来客等もあって大変忙しい。ゴールデンウィークが終わると同時に音楽が消え去るような気がするのも寂しい。そこで5月の後半の休日、「風と緑のなごりの小音楽祭」を勝手に妄想して、CDなどで音楽を聴いてみました。名前は「アオバト音楽祭」。とりあえずのテーマはハトや鳥にちなんだ音楽。まずは、1971年ニューヨーク国連本部での演奏に先立って、「カタルーニャの鳥はピース、ピースと歌います」と平和を訴えたことで知られる、パブロ・カザルス「鳥の歌」(チェロ)。次にヴィヴァルディ「ごしきひわ」(フルート)。締めくくりはシューベルト「冬の旅」の「クレーエ」(からす)です。
鴉が一羽一緒に/町から随いて来た。/今日までずっと/頭のまわりを飛んでいる。/鴉よ、変わった動物よ、/僕を見捨てようとはしないのか?/やがてここで僕の身体を/餌食にしようと思っているのか/(後略)
歌詞の不気味さはアオバト並みですね。20歳代の頃、私はこの「冬の旅」が大好きでした。
こじつけついでに、アンコールはシューベルト「魔王」(歌曲)。「馬追い」からの連想範囲です。「悲痛」を通奏低音とするテーマもアオバト音楽祭にふさわしいので、次はレクイエムなどもテーマにしてみたいと思いました。私の「アオバト音楽祭」です。
出典
アオバト(1)鳴く(舳倉島) - White-bellied green-pigeon - Wild Bird - 野鳥 動画図鑑 https://www.youtube.com/watch?v=hinD9VlN5HY
「遠野物語52(魔王鳥)」https://dostoev.exblog.jp/21062512/
「冬の旅15 鴉」:ヘルマンプライ(バリトン) 演奏:オーケストラ・アンサンブル金沢 指揮:岩城宏之 1997年10月7日 ミュンヘン・プリンツゲンテン劇場におけるライブ録音CD 訳詞・解説:石井不二雄による