今から10数年前になりますが、ある国際学会を金沢で開催し、事務局責任者を務めたことがあります。日本で初めて、アジアでは中国に続いて2回目の学会ということもあって、ヨーロッパ、中東、アメリカ、南米、韓国、中国、台湾など、海外からおよそ50人、国内から100人ほどの参加者がありました。
会期中はもちろんですが、その準備期間中にさまざま予期しない出来事が次々と起こり、その対応に追われました。それらは「国際学会楽屋裏てんやわんや」としていつかまとめてみたいとは思っているのですが、要するに私の失敗談です。どれほど大変だったかというと、その準備・後始末を含めた2年間に、私の頭髪が真っ白になったのです。これはどう考えても加齢による自然現象だけではなかったと思います。
その中のエピソードを一つ。
学会まであと2か月を切った頃のことでした。突然メール(と電話)でアフリカのある国から連絡が入りました。もちろん英語です。A氏としておきましょう。「私は会員ではないが、出版社を経営している。この学会に興味があり、参加したい。至急招請状を送ってくれないか。」
これに対し、「この学会は極めてマニアックな専門学会であり、一般向けではない。招請状には何の金銭的な支援も伴わない」ことなど説明したところ、「私は裕福であり、お金の心配は要らない。金沢では○○ホテル(実在する高級ホテル名を挙げ)に泊まるつもりである。内容的に面白ければ、本として出版することを考えている」と立派なお返事。
非会員であっても参加希望者には招請状を送る(これがないとビザが発給されない国もある)ことにしておりましたので、EMS(速達航空便)で発送。数日して届いたとの連絡。すると、さらにA氏の友人だとする数名の人々から、「自分たちも行きたい。自分たちにも招請状をくれと」の依頼。A氏の前例がありますので、送らざるを得なくなりました。 数日後、その中の一人から、「受け取った。ありがとう。これから150Km離れた日本領事館にビザ申請に行ってくる」との連絡。ところが翌日、「ああ、アラーの神よ。何たることか。途中、車が転倒・炎上し、あの書類は燃えてしまった。もう一度送って欲しい。」
もう時間的に無理であるから再発行はしないことを本人に通知するとともに、アフリカの当該地域を管轄する日本大使館に直接電話し(もちろん日本語で)、事情を説明させていただきました。すると大使館職員曰く。「1年前に医学系の国際学会が日本でありましたが、まだ帰国していない人もいます。国際学会といえども、通常通り厳格・適切に運用いたします」。なるほど。世界というのはそういうものなのですね。
国際学会を開催してみて、日本国内しか知らない自分がいかに狭い井の中の蛙であるか。実に勉強になりました。そしてこれは「喜劇」のほんの一例に過ぎないのです。白髪の代償もやむをえません。
ちなみに、くだんの人々は誰一人会場に現れなかったことは言うまでもありません。