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本当の自分に出会う(4.2 入学式にて)

2022年04月10日 学長コラム

筆者撮影 浅野川畔の桜 杜の里付近

金沢の桜も咲き始め、金沢星稜大学に入学された皆さんを祝うかのようです。本日ここに、保護者の皆様、教職員とともに、皆さんの入学式を執り行うことができますことを、心より喜びたいと思います。これまでの皆さんのご努力に敬意を表しますとともに、皆さんを支えてこられましたご家族や関係者の皆様にお祝いを申し上げます。
さて、皆様ご承知の通り、2019年から始まった新型コロナの世界的感染拡大と、2022年2月24日に突如始まったロシア政府によるウクライナ軍事侵攻によって、世界は大きな危機と動揺の時期を迎えております。世界は戦争や貧困の中で、生命の危険にさらされ、高等教育を受けるどころではない国や地域がたくさんあるのが現実です。この難しい時代に皆さんは生きなければなりません。それゆえにこそ皆さんが大学で学ぶ意味があります。
「貴重な学びの機会であることを自覚し、学べる喜びを大切にしていただきたい」と思います。

霊長類の研究者、元京都大学総長・山極壽一(やまぎわ・じゅいち)先生は、「大学はジャングルだ」と例えられました。ジャングルのある熱帯雨林は、世界中で最も生物多様性に富み、多様な生物が独自のニッチ(生態的居場所)をもってひしめき合い、常に新しい種やニッチを生み出し、変化しつつ、それでいて安定を保っています。しかも単独で成り立っているのではなく、赤道直下の豊富な太陽光と雨量によって支えられ、ジャングルと外の世界が有機的に結びついているというのです。

大学という所も同様で、多様な学問分野に研究者や学生がひしめき合い、分野の枠を超えて切磋琢磨することで、常に新しい考えや技術が生まれます。豊富な太陽光と雨量に匹敵するエネルギーは、大学の場合、社会の人々から寄せられる期待と願い、そして様々な具体的支援です。
大学も社会も、常にそこを出入りする個体(皆さんもそうです)を通して、互いにつながっているのですね。これが高校までとは違う、大学という学びの場の大きな特色です。

本学の歴史にも簡単に触れておきましょう。
金沢星稜大学の母体である稲置学園は1932(昭和7)年、初代理事長稲置繁男によって設立された「北陸明正珠算簿記専修学校」に始まり、今年度で創立90周年を迎えます。
「北陸明正珠算簿記専修学校」は、昭和初期、政治的にはファシズムに向かう暗い時代ではあったのですが、一方で不況を脱して活気を帯び始めた地域経済を担う人々に、ビジネスの基本を教える学び舎でした。算盤の珠をぱちぱちと弾けば、答えは自ずから明瞭です。正確な簿記には嘘がありません。「明瞭かつ正確」であり、人々が職業人として生計を立て、かつ北陸地域の発展にも役立ちたい。この「明正」に込められた建学の精神は、やがて「誠実にして社会に役立つ人間の育成」と定式化され、今日に至ります。
先ほど学歌をお聞きいただきました。お気づきのように、その中に出てくるのが「経世済民」(けいせいさいみん)という言葉です。縮めて「経済」になりましたが、もともとは世を経(おさ)め、民を済(すく)う中国の古典に由来します。分かり易く言うと、「世の中で真面目に働いて生きていくこと、さらにそれが自分だけでなく、ほかの人々の幸せや世の中に役立つような人間になりなさい」という意味です。経済学部はもとより、金沢星稜大学の全学部・学科に共通する建学の理念です。
皆さんが4年後卒業する時に、そうなることを期待されている人物像です。このことをよく覚えておいてください。

本日は、入学のお祝いを兼ねて、皆さんお一人おひとりに4年間の宿題を課したいと思います。それはこれからの4年間を、「生涯をかけても出会わなければならない人に出会うための準備の4年間にしなさい」ということです。
生涯をかけても出会わなければならない人、それは恋人かと思われた方も多いかもしれません。それも大事なことですが、私の言っているのは「本当の自分」ということです。
恥ずかしながら、私は寅年生まれの現在72歳。この歳になって、少しは自分というものを分かったような気もするのですが、まだまだ未熟。時に腹を立て、他人を羨み、嫉むこともあります。つまり本当の自分を十分に分かってはいないのです。 本当の自分と出会う、あるいは見つけるためにはどうしたらよいのでしょうか。それには、他者を知ることが不可欠です。学部や学科、勉強する学問の性格、学風によっても考え方や人間性に違いが出てきます。先生や友人、皆そうです。人は皆、他者との触れ合いの中で、この人は自分と違う、自分にはないものを持っていると気づかされます。そこから、他者をコピーするのではなく、参考にしながら、それまでの自分にはなかった新たな自分を描き、作り出そうとします。
よく言われることですが、古代ギリシャ人は、自分たちとは言葉や風習も違うペルシャなどの異民族との接触によって、初めて自分たちがギリシャ人なのだと自覚したのだとされます。我々は他者との接触によって自分を認識し、自分を超えていくのです。
これからの4年間、あなた方一人ひとりが、自分の殻に閉じこもるのではなく、積極的に他者とかかわり、自分を表現してみてください。ただし、自分の宣伝や押しつけの必要はありません。

冒頭に大学はジャングルだと申し上げました。本学は多様性に富んださまざまな人間集団であります。あなた方の多感な4年間に、多様な考え方や人間に触れ、自分を高め、本当の自分に出会うことができる契機になるとすれば、それは一生の宝物になります。

結びに、皆さんが、金沢御所町の自然豊かなキャンパス環境で、充実した教育プログラムと先生方の指導、切磋琢磨する仲間たちとともに、将来に向けた様々な力を身につけ、「誠実にして社会に役立つ人間」になるための学びを深められますことを祈念して、式辞といたします。