金沢星陵大学女子短期大学部

学長室の窓から

「園長先生の帽子」

4月25日

2002年から4年間、幼稚園の園長先生を兼務することになり、たいへん戸惑ったことを覚えています。帰宅して家内に「4月から園長先生なんだって…」と告げると、自宅が近かったこともあるのでしょう。
「あの○○動物園ですか?」
 
動物園職員の皆さんには失礼ながら、自分でもまだそちらのほうが…と思ったくらいですから、まさに青天の霹靂(へきれき)。当時は教育学部に所属していましたから、さすがに小中高・特別支援学校までは時折参観してきましたが、附属幼稚園は全く未知の宇宙でした。

筆者撮影、朝霧公園にて

4月になって園児と同様、ドキドキしながら登園。幼児教育はもとより素人でしたから、できることといえば、裸足で一緒に外遊び。白い帽子を用意しました。鬼ごっこで、この白い帽子が飛ばされると、ゲットした子が「園長先生の帽子」といって、大喜びで駆けまわり、追いかけると、次々に手渡しで逃げ回ります。はあはあ、ぜいぜい。双方ともくたびれ果てるまでのエンドレス。しかも大興奮のるつぼなのです。
 
アゴン(競争)・イリンクス (めまい)などの概念で、人間はなぜ遊ぶかを考察した、ロジェ・カイヨワ(1913-78)の理論を目の当たりにし、感動しました。
 
保護者の中に、脊髄整形外科のお医者さんがおられて、曲線かけっこや鬼ごっこでも転ばない園児の身体と走りに着目。この裸足の外遊び効果だとほめてくださいました。足裏や筋肉の、温度、接地圧、床反力、加速度、遠心力などを感知するセンサーから伝えられる情報が神経回路によって脳に伝達され、脳が神経回路を通じて適切な出力情報を筋肉に伝達するということで成り立つ体の仕組みが、裸足の外遊びの中で形成されているというのでした。論文にも書いていただき、あるテレビ局からも取材があって、15分番組にまとめてくれました。久々に見たら、元気に走り回る園児と少しばかり若々しい園長先生が映っておりました。園児たちも今はみな、大学生から社会人として活躍している頃でしょう。
 
あれから20年。教育学者の末端に連なる者として、4年間の園長先生は、目からうろこのまことに得難い経験でした。「園長先生の帽子」はその象徴。愛着もあって、毎朝散歩に使っていたのですが、さすがに更新する時期のようです。
 
Sei-Tanにはどんな帽子がフィットするのだろうと思いつつ、最後の記念写真でした。