学長コラム

「令和6年能登半島地震」と創造的復興

2024.02.01

2024年1月1日の「令和6年能登半島地震」を受けて、金沢星稜大学では急遽第4次中期計画(2024-2028)に「能登半島の創造的復興とともにあゆみ、地域創生に貢献する全学的な取り組みを推進する」目標を加え、復興に関するさまざまな事業およびその支援へ向けて全学的に取り組む決意を表明することとしました。

本学を志望する被災受験生に対しては、入学検定料の免除や入学金の返還、お見舞い金の支給や災害救助法適用地域の世帯学生に対する日本学生支援機構奨学金の支給案内などを積極的に行い、被災された方々が大学進学を断念することのないよう対応してまいります。学生の皆さんも学生支援課、入学課などに遠慮せずにご相談ください。

また1月27日から被災地域へ部分的なボランティア活動が開始されたことを受けて、1月29日午後2時から本学・地域連携センターが、本学学生のボランティア希望者の登録受付を開始いたしました。うれしいことにわずか2時間余りで、70名を超える登録がありました。なかには現在海外留学中の学生からも「今は参加することができないが、もし4月後半以降に何か支援できるような事があれば参加させてもらいたい」。穴水町に帰省中に被災した学生は「大好きだった街が全く別の街に変わりとても悲しいです。少しでも多くの人が今までの生活に近い状態に戻れるように何か力になれればと思っています」と申し出てくれました。またすでに白山市に集団避難している小中学生の学習・生活支援に出かけている学生やサークル等もあります。学生の皆さんのこうした活動や申し出は、学長として誠に頼もしく、うれしく思います。

また被災地の地元大学として、金沢星稜大学はこれから中・長期的な見通しの下に復興を支える人材を養成する必要があろうと思います。そのために4月から全学に「復興学」を開講します。これは、これからの能登および関係地域の復興を「創造的復興」ととらえて、その具体的な内容や方法を学生・教職員と共に学問的に学んでいきたいと思います。また4月から発足する経済学部の「地域システム学科」の学びは、まさに「創造的復興」システムそのものの学びとなります。

「創造的復興」というのは、災害発生後の復興段階において、次の災害発生に備え、以前よりも強靱な地域づくりを行うという考え方のことで「より良い復興」とも呼ばれます。 最初は、1995 年阪神・淡路大震災に際して兵庫県が提唱した概念であり、その後、東日本大震災や熊本地震でも提唱されました。能登半島は三方を海に囲まれた過疎の地域、しかも高齢者比率の高い地域です。元の状態に復旧するだけでは、間もなく限界集落化する所も出てくるでしょう。「創造的復興」を成し遂げるには、ただお金を支援・投入するだけでなく、経済の復興・地域の再生に繋げないと意味がありません。肝心なのは、それを実行できる知識や技能を持ち、意欲を持った人材です。つまり能登地域の自然や地理、農業や漁業、自然科学やDXの知識・技能を持ち、歴史や文化まで理解している文理融合・総合的な人材が必要なのであり、まさに星稜STEAM-D教育が目指す人間像なのです。

具体例を一つだけ。輪島市町野川沿いにある国の重要文化財「上時国家住宅」も地震で押しつぶされました。この中世以来の旧家である「奥能登時国家文書」を研究した日本史研究者網野善彦(1928 – 2004)先生は、「時国家」が単なる農家の範疇に収まらず、数艘の大きな船を所有し、松前から、佐渡、敦賀、京、大阪と交流し、塩、材木、炭などを運び、鉱山経営に至るまで多角経営を行っていた廻船交易業者であったことを明らかにしました。お母上が輪島のご出身で、ご自身も網野先生と共に「時国家」調査に携わられたという元奈良大学学長・千田先生が言われるように、「時国家」のある奥能登は能登半島の行詰まりですが、これは陸の視点。しかし海の視点から考えると、能登半島は日本海ネットワークで人・物・情報が行き交い、世界に開き、世界とつながる豊かな半島であったことが分かります。能登半島の創造的復興にはこのような海の視点がそのカギになるかもしれません。若い学生の皆さんの柔軟で斬新な発想と創造性こそが今求められています。皆さん一緒に学びながら地域と共に歩みましょう。
注及び参考文献
網野善彦「日本の社会は農業社会か」『日本の歴史をよみなおす(全)』ちくま学芸文庫、2005、231-268頁
千田嘉博「母の故郷の輪島を襲った能登半島地震 国重文の上時国家住宅、国史跡の七尾城跡など歴史にも激震」(2024.1.30取得)
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