学長コラム

2025年の年頭に当たり:金沢星稜大学の「能登半島地震の創造的復興」と未来に向けて

2025.01.01

2025年、新しい年が明けました。皆さんお一人おひとりにとって今年が良い年でありますように。そして世界に平和と安寧がもたらされますように祈ります。

昨年2024年は「辰(龍)」年でした。私は劈頭の挨拶に「昇龍などといわれるように、物事が勢良く変化して活気のある年」と記しましたが、元日に「令和6年能登半島地震」が発生。その後の1年間は復旧と創造的復興が大きな課題となりました。9月の豪雨災害も重なり、それは今なお道半ばであります。あらためて亡くなられた方々、被害に遭われた方々に心から哀悼の意を表し、お見舞いを申し上げます。そして、「石川県創造的復興プラン」に即しつつも、なお被災地能登に近接した大学の一つとして、地域に寄り添いつつ、微力を尽くす決意であります。

本学では、昨年を「Seiryo教育改革元年」と位置付け、いくつかの新しい教育システムをスタートさせました。主なものは以下の通りです。

①星稜STEAM-D教育

STEAM教育というのは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art(芸術)、Mathematics(数学)の5つの単語の頭文字を組み合わせた教育概念です。昔ながらの文系・理系という二つのタイプに分けた教育ではなくて、様々な分野の知識や技能を総合的に活用し、社会に横たわる複合的で多岐にわたる問題や課題を解決できる「総合知」を育もうとする概念です。しばしば「文理融合」教育とも言われますが、それだけではありません。標語の中にArt(s)が含まれていることに注目していただきたいのです。
Artは、しばしば芸術と狭義に捉えられがちですが、本来はリベラル・アーツ(liberal arts)のことです。本来人間が「自由になるための諸芸」(liberal arts)でした。ですから、リベラル・アーツは単なる教養ではなくて、「どうしたら人間は幸せに生きられるのか」を考え、企画立案し、実行する力を身につけることを目的とします。

スーパーコンピュータも人工知能(AI)も宇宙ロケットもめざましく発達を遂げている一方で、我々は新たな核兵器の脅威にさらされ、世界各地に頻発する戦争と紛争、対立と混乱、貧富の格差拡大の進行、そして温暖化にともなう激しい気候変動などに、為す術を知らないという状態に陥っています。
こんなはずではなかった。けれど、それは自分の責任ではないと、一般に思い込んでいるところがあります。私は大学人として、この思い込みが専門分化し過ぎた教育の偏重に伴う欠陥によるものではないかと考えています。学問の専門分化自体は高度化のために必要なことですが、専門化には常に同時に様々な専門を俯瞰し総合する知を随伴せねばなりません。自分だけでなく世界の立場から、どうしたら人間は幸せに生きられるのかを考え、立案し、実行できる自由なる人間の育成こそがSTEAM教育の本質だと考えています。ですから今こそSTEAM教育の力を身につけなければなりません。

②地域システム学科の誕生

2024年4月から経済学部に「地域システム学科」を新たに立ち上げました。フィールドワークに基づきながら、地域経済・公共政策・観光の横断的な学び、地域課題の解決にむけたデータサイエンスとICTを活用した学びが特色です。地域の「魅力」を見出し、「活力」を生み出すための総合的な知識と実践力を培います。

③人文学部に国際英語学科(2025年4月)

2025年4月からは、人文学部に新たに「国際英語学科」を立ち上げます。海外留学やAIなどデジタルスキルを活用しながら、グローバルな場面での交渉、学術的な意見交換にも対応できる国際語としての高度な英語活用能力を養います。一方で国際文化学科は英語圏のみならず、世界の文化と言語を幅広く学ぶ点に特色を強化します。

④「学部再編等による特定成長分野への転換等に係る支援」採択

令和6年度文科省「大学・高専機能強化支援事業」(支援1:学部再編等による特定成長分野への転換等に係る支援)」に、本学が申請した「地域の創造的復興を支える文理融合型人材育成を目的とした金沢星稜大学総合科学部の設立」が、選定されました。現在名称や内容も含めて鋭意検討作業を進めております。

⑤新理事長のリーダーシップの下、学園改革を推進

令和 6年 6 月に開催された理事会において、樫見由美子元監事が新理事長に選任されました。大学・短大のみならず、星稜中学校・高等学校の6年一貫教育校への転換なども含めて、稲置学園全体の将来を見据えた改革に拍車がかかるであろうと期待されます。

金沢星稜大学としても、稲置学園の基幹校として、積極的な改革に取り組む所存です。DXを積極的に活用しながら、教養教育はもとより、各学部・学科の専門教育分野の新設・改編まで含んで、自ら積極的に変わっていこうとする基本姿勢を本年の始まりに当たり、確認するとともに一層加速させていく覚悟を表明させていただきます。Seiryoの教育改革宣言(Seiryo Transformative Education for Arts and Mathematic by DX)、略して「STEAM-D」です。

筆者撮影 「穏やかな1年でありますように」(2024年元旦、地震直前の金沢城にて)