学長コラム

「本当の自分に出会う4年間」-令和6年度金沢星稜大学入学式式辞から-

2024.04.02

金沢の桜も咲き始め、金沢星稜大学ならびに金沢星稜大学大学院に入学された皆さんを祝うかのようです。本日ここに、保護者・来賓の皆様、教職員とともに、皆さんの入学式を執り行うことができますことを、心より喜びたいと思います。これまでの皆さんのご努力に敬意を表しますとともに、皆さんを支えてこられましたご家族や関係者の皆様にお祝いを申し上げます。   

皆様ご承知の通り、今年元旦、「令和6年能登半島地震」によって、私たちの故郷は能登・加賀を中心に甚大な被災に見舞われました。本学園も関係職員1名を亡くしたほか、関連施設設備に一部被害がありました。しかしながら、修復工事も進み、4月から始まる皆さんの教育・研究・大学生活には大きな支障はないものと見ております。どうぞ安心して学業生活を開始してください。

本学は、被災地の地元大学として、また建学の精神として、「誠実にして社会に役立つ人間の育成」を掲げる大学として、短期はもとより、中・長期的な見通しの下に復興を支える人材を養成する中心的大学にならなければなりません。

そのために、大学の中期計画目標に「地域の創造的復興とともにあゆむ」と明記し、4月から全学に「創造的復興学」を開講、全国にも公開します。「創造的復興」というのは、単なる復旧ではなくて、以前よりも強靱な地域づくりを行う復興という考え方のことで「より良い復興」とも呼ばれます。能登および関係地域を創造的に復興するために、私たちは積極的に地域の現場に出かけ、具体的な内容や方法を人々と共に考え、また学んでいきたいと思います。

経済学部の「地域システム学科」に入学された第1期生の皆さん、皆さんの学びは、まさに「創造的復興」システムそのものの学びとなります。 地域システム学科だけではありません。経済、経営学科はもとより、人間科学部こども学科、スポーツ学科、人文学部国際文化学科の皆さんも、それぞれの分野で能登の創造的復興に自分がどのように関われるか、総力を挙げて考え、取り組んで参りましょう。皆さんの背中には、地域の創造的復興を支えてほしいという期待と願いの眼差しが向けられていること忘れてはなりません。皆さんその期待と願いに応えようではありませんか。

先ほど、学歌「白山(しらやま)の虚空を翔ける」をお聞きいただきました。学歌は建学の理念を謳います。お気づきのように、1番から3番の歌詞で、リフレインされるのが「経世こそはわれらの思念、済民こそはわれらが願い」という言葉です。「経世済民」。縮めて「経済」。エコノミクスの訳語になりましたが、もともとは世を経(おさ)め、民を済(すく)うという意味で、中国の古典に由来します。分かり易く言うと、「世の中で真面目に働いて暮らしを立てていく、さらにそれが自分だけでなく、ほかの人々の幸せや世の中に役立つようにしたい」という意味です。私たちも、やがて世界の人々の経世と済民とにまで思いを及ぼしたいものです。

本日は、入学のお祝いを兼ねて、皆さんお一人おひとりに4年間の宿題を課したいと思います。それはこれからの4年間を、「生涯をかけても出会わなければならない人に出会うための4年間にしなさい」ということです。
生涯をかけても出会わなければならない人、それは恋人かと思われた方も多いかもしれません。それも大事なことですが、私の言っているのは「本当の自分」ということです。
本当の自分と出会う、あるいは見つけるためにはどうしたらよいのでしょうか。それには、他者を知ることが不可欠です。学部や学科、勉強する学問の性格、学風によっても考え方や人間性に違いが出てきます。先生や友人、皆そうです。人は皆、他者との触れ合いの中で、この人は自分と違う、自分にはないものを持っていると気づかされます。そこから、他者をコピーするのではなく、参考にしながら、それまでの自分にはなかった新たな自分を描き、自分を超えようとします。
よく言われることですが、古代ギリシャ人は、自分たちとは言葉や風習も違うペルシャなどの異民族との接触によって、初めて自分たちがギリシャ人なのだと自覚したのだとされます。我々は他者との接触によって自分を認識し、自分を超えていくのです。 これからの4年間、あなた方一人ひとりが、自分の殻に閉じこもるのではなく、積極的に他者とかかわり、自分を表現してみてください。

金沢星稜大学は2022・23年度日経キャリア・マガジンの全国就職ランキング、一学年1500名以下の小規模大学部門で日本一に選ばれた大学です。その評価観点は4つありますが、「行動力」「対人力」がいずれもトップ、「独創性」が10位と高く評価されています。「知力・学力」はトップテンには入っておりませんが、皆さん、これは我々の共通課題というものです。

つまり皆さん、金沢星稜大学の学生は「行動力」「対人力」が抜群、「独創性つまり個性も豊か」と評価されているのです。素晴らしい。これをさらに伸ばしましょう。加えて少しばかり苦手な「知力・学力」を、自分の得な分野、例えばコンピュータや語学力、簿記会計あるいは税務などで強化できれば、これはもう鬼に金棒というものです。地域でフィールド・ワークする各種授業やゼミ活動、CDPプログラム、進路支援プログラム、国際交流プログラム、課外活動やサークル活動なども皆さんを鍛えてくれます。

大学というところは、多様性に富んださまざまな人間が集まっている集団であります。あなた方の多感な4年間に、多様な考え方や人間に触れ、自分を高め、本当の自分に出会うことができる契機になるとすれば、それは一生の宝物になります。

結びに、皆さんが、「地域の創造的復興とともにあゆみ」ながら、充実した教育プログラムと先生方の指導、切磋琢磨する仲間たちとともに、将来に向けた様々な力を身につけ、「誠実にして社会に役立つ人間」になるための学びを深められ、有意義な4年間を過ごされることを祈ります。

大きく咲いてください(入学式の朝)